ジオン軍の失敗

siroi_mogutan2009-05-09

この本はすごい・・・というかほんまもんの研究書ですな。

製品開発に携わるすべての人に贈る「ガンダムから学ぶ失敗の本質」というテーマで膨大な文献やデータをもとに製品開発における失敗を分析するまさに研究書です。

著者の岡嶋裕史さんが言うには、コンピューターの開発の歴史をひも解くよりもエンジニア層にとっては歴史よりも定石よりもリアリティのあるガンダムをテーマにしたとのこと。確かにザクの開発の歴史を紐解くことで製品開発のノウハウを学ぶとなると、かなり力が入りそうです。

またこの本では、ガンダムのあらゆる映像だけでなく、原作の小説や解説本に至るまですみずみまで分析されており、その矛盾点や論理的な展開まで網羅され、愛好家もうならせるほどの密度の濃い内容に仕上がっています。

ちょっと参考までに、MS-06Rシリーズ(高機動型ザクシリーズ)のくだりから少し引用してみることとします。


戦闘に特化した形で進化を遂げたザクとしてMS−06R−1が登場する。シルエットからも分かるようにMS-06Fまでのザクシリーズとは一線を画した設計である。さらなる高機動を実現するためにもランドセルとも呼ばれるバックパックを巨大なスラスターに換装しているのだが、このスラスターの推力は218t×2基であり、MS-06Sと比較しても大きな推力増であったといえよう。

さらには、脚部にも左右3基ずつの増速用ブースターが増設されている。脚自体を一種の可変ノズルと捉える設計思想であり、MS−06R−1の機動性向上に大きな効果をもたらしている。

ただし、MS-06Sで露呈したように、スラスター推力の増大に頼った機動性向上は、戦域稼働時間の減少という副作用をもたらす。これに対応するためにMS−06R−1では、バックパックのプロペラント・タンクの体積増大、脚部スラスター、大腿部、スカートへのプロペラント・タンクの追加が行われている。

この結果、脚部ユニットは単純歩行についての性能下落を招いたとする文献がある。MS−06R−1は、コスト面でも性能面でも、すでに作業機械、工作機械ではありえなかったのである。

これだけの変更を伴う改修が、例えばMS-06CからMS-06Fへのような微細な正常進化で終わる理由はない。あるマシンの基本推力が2倍になれば、構造そのものの検証と再設計が必要になるのはほぼ自明である。

先のシルエットからもMS−06Fの面影が乏しいことは一目瞭然である。MS−06R−1はもはや、いわゆるザク?と生産ラインを同じくするシリーズではなく、ザク?と呼んで差し支えないほどの設計変更を伴った機体であった。事実、MS−06R−1はF型とは異なる生産ラインで製造されている。



問題として指摘されているのは、これだけの設計変更を伴うのにザクを継承する意味があったのか、ということと、ドムやゲルググといった新機種の生産が始まっていたにもかかわらず、過去の戦績にこだわるあまりにザクの生産ラインをそのまま残して並行製造を行った点を疑問視している。

ここまで書くと、おそらくこの本のすごさをご理解いただけたのではなかろうかと思います。これを書いた岡嶋裕史さんは、関東学院大学の准教授というからまた驚きです。

というか、それ以前にこれだけのメカニックやストーリーを緻密に築きあげたガンダム制作者に脱帽です。